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大阪地方裁判所 昭和55年(人)3号 決定

請求者

甲野一郎

甲野花子

右訴訟代理人

阪本政敬

千本忠一

被拘束者

甲野桃子

拘束者

G・乙川

ミセスG・乙川

主文

一、請求者らの請求は棄却する。

二、手続費用は請求者らの負担とする。

事実及び理由

一請求者らは「被拘束者を釈放し、これを請求者に引渡す。本件手続費用は拘束者らの負担とする。」との判決を求め、請求の理由として「請求者両名は夫婦であり、被拘束者は請求者両名の子であるところ、拘束者両名は昭和五五年三月一日頃以来被拘束者を違法に拘束し、請求者らの請求にもかかわらず被拘束者を請求者らに引渡そうとせず、不当に拘束を続けている。」と述べた。

二よつて判断するに、一件記録によれば、拘束者両名は国外である肩書住所に居住しているというのであるから、日本国の主権の及ぶ範囲内に現在していないことは明らかである。

ところで人身保護法は、同法第一条に明らかな如く、基本的人権を保護する日本国憲法の精神に従い、現に不当に奪われている人身の自由を、司法裁判により迅速、且つ、容易に回復せしめるための手続法であるが、この手続において注目すべき点は、裁判所が判断作用として被拘束者の釈放を命ずるという観念的救済を図るというのではなく、裁判所自らが釈放の事実状態まで形成することを必須とする手続だということである(法第一六条、規則第二条、第三七条)。そして、かような事実的形成を可能とするための布石として、この手続では、人身保護命令により裁判所が拘束者及び拘束者を通じて被拘束者をも、その支配下に収めて審理を進める仕組とされているのである(規則第二五条第一項)。しかし、かかる仕組みが法的に保障されるのは、拘束者が日本国の主権の及ぶ範囲内に現在し、わが裁判権に服すべき場合に限られるというべきである。つまり人身保護法は、日本国の主権の及ぶ範囲内においてのみ機能することが予定された手続法と解しなければならない。従つて、拘束者が国外にあつてわが裁判権に服しない場合には、同法の発動の余地はなく、人身保護請求は不適法といわざるを得ない。

三  そうであれば、前記認定のとおり、拘束者らは日本国の主権の及ばない国外に現住し、日本国の裁判権に服しないものであるから、請求者らの拘束者らに対する本件請求は人身保護法第一一条第一項、同規則第二一条第一項第一号により不適法として棄却し、手続費用の負担につき同法第一七条、同規則第四六条、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり決定する。

(石田眞 島田清次郎 塚本伊平)

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